なんだか小学生の読書感想文みたいなタイトルになってしまったが。
まさか自分がフルマラソンに出るなんて
短いといいつつもそれなりに長い人生,「よし,フルマラソンの大会に出よう」と思い立つタイミングはそうそうないと思うのだが,私の場合は令和の世になってまもなく——2019年7月のことであった。
突然だが,私の職場の同僚には超走れる男・Tさんがいる。彼が6月頃,言った。
「小西(私)さん,マラソン出ないっすか」
「え,いやいや何を仰るんですか。僕なんかじゃ無理っすよ」
「そんなことやってみなきゃわからないじゃないですか! やりましょうよ!!」
確かこんな感じだったと思う。正直全然ことの経緯は思い出せないが,彼の普段の言動から想像するに違和感がないので多分ほぼ正解のはず。
このように「無理です」と突っぱねた私だが,なんだかふとした瞬間に気になる。
Tさんの言うように「やってみなきゃわからないじゃないですか」は実際のところ,人生において真である。
やってみてやっぱり向いてないなと思ってやめることはいつでもできるけど,試す気がちょっとでもあるなら早いほうがいい。人生で一番若いのはいつだって今なのだ。
しかしいつだって挑戦は心細い。そんな時にありがたいのが頼れる友人の存在である。
職場の同僚ではないが,大学院生の時に学会で会って以来仲良くしている友人・icchiがいるのだが,彼は会社でバレー部に入っていたり登山も嗜んだりと私の友達の中では結構なスポーツマンの部類。誘うなら彼が適任と思い至るに,数瞬も必要ない。
ちなみに以下が彼のサイト。私のチンケなブログよりもはるかに濃い技術的な内容が多いので是非見てみて。
そんなわけで,「マラソン参加したいんだけどどう」と送って返信を待「お,いいね!」この快諾っぷりが彼の魅力である。
その後ヤンヤヤンヤと予定が伸び,結果的に12月開催の「第6回はが路ふれあいマラソン」に申し込む運びとなった。
2024年12月15日(日)開催の第11回はが路ふれあいマラソン 【公式】サイトです。当サイトではコースマップ、エントリ…
レース前夜,餃子の都にて
マラソンのスタートは12/15(日)の09:33。場所は栃木県は真岡(もおか)市。宇都宮駅からシャトルバスで40分ほどの距離である。
宇都宮というところは都内から湘南新宿ラインで1本で行ける,意外とアクセスのよい街なのだが如何せん遠い。池袋から90分ほどかかる。当日に現地入りするのはちょっとツラい。ということで前泊が必要である。マラソンにまず必要なのは十分な睡眠であるからして。
というのは後付けの理由で,実際は餃子である。
実は,私的マラソンの伝道師・Tさんからは「前日の食事は脂質を控えめに炭水化物を多めに取るといいですよ」なるアドバイスを頂いていたが,残念ながら餃子の前には無力である。誠に残念。だが後悔はまったくない。
アドバイスとは裏腹に脂質たっぷりの餃子を前に,「炭水化物も必要らしいからチャーハンも頼んじゃうか!」とicchiと意気投合する私である。ちなみにチラッと写っている小麦色の液体は炭水化物だと思っているので問題ない。
そして大会へ
予定通りにホテルを発ち,09:33のスタートに対して08:30頃に会場入りした私たち。着替え,準備体操をしてスタート列に並ぶ。
この「スタート列に並ぶ」というのがちょっと面白かったのだが,スタート地点から後ろに向かって「目標タイム3時間以内」「目標タイム3時間30分以内」……と看板を持ったスタッフが立っている。各自の目標タイムに合わせた位置からスタートするという仕組みになっていて,なんというかマラソンというものが「他人ではなく自分との勝負」であるということを実感した瞬間でもあった。
前述のようにだいたい30分刻みで目標タイムが掲げられているが,私の目標は一番後ろ……の1つ前の,「4時間30分〜5時間」のところにした。古人曰く鶏口となるも牛後となるなかれとは言うが,目標は「ちょっと無理かもな」と思えるくらいがちょうどいい。
スタート〜10km地点
上の写真ではやや曇っているが,スタートから少しして晴れ間が覗き,天候には恵まれた。沿道には常に応援してくれる地元の人がいるし,ところどころに給水所もある。
1周5kmの皇居ランですら1周が限界の私だが,10kmまでは快適に走れたことに一番ビックリしていたのは他でもない私である。
あれ,マラソンって意外と走れるんじゃね。
しっかりとフラグを立てるのも忘れない。
10kmを過ぎた地点に「関門」と呼ばれる場所があり,制限時間内に突破しないとそこで失格となる。正月の駅伝でよく見る光景だ。今回のレースでは関門は10km,20km,30km,36km地点の計4ヶ所である。
第一関門の制限時間はスタートから1時間30分。キロ9分のペースである。
私は1時間5分くらいで通過。この時はまだ余裕があった。「あ,もう1/4終わったんだ」とニヤついたのを覚えている。
また,ここまでの給水所は水とスポーツドリンクが主だったが,ここで初めてチョコレートが登場。めっちゃ美味しくて驚いた。
10km〜20km地点
15km地点くらいまでは沿道の応援が絶えない。地元のおじいちゃんおばあちゃんから,小学生の子までががんばれーと叫んでくれるのは,良い意味で自分が自分の人生の主人公であることを確認するのに十分だし,普通に嬉しい。
特に小学生の子が穢れも知らぬ満面の笑みでハイタッチ待ちで手を出しているとなればこちらも手を出さないわけにはいかない。沿道の人が多い場所になると自ずから走るペースも上がるというもの。
そんなこんなで楽しく進み,20km地点の通過が確か2時間20分くらい。最初の10kmからペースは落ちたとはいえそこまでではない。
第2関門の給水所では遂にイチゴが登場。当然のように美味しい。
さぁ後半だ。
そこで私は力尽きた。
20km〜30km地点
ここがツラかった。
このあたりから山間の道に入っていくのだが,それにつれて沿道の人もまばらになる。
だからというわけでもなく,単純に体力と道の勾配の問題なのだが,突如として私に限界が来た。膝と足首が痛いのだ。
違和感を覚えてしまうとあとは早いものだ。
「中間地点」と書かれた21.1km地点を越えて,このままじゃまずいなと思い始めちょっと歩く。歩いても痛い。
この10kmは本当にツラくて,1分歩いて10分走るみたいなことを繰り返してなんとか30kmを突破。
30km〜36km地点
ここもツラかった。
いよいよ膝の痛みが無視できないようになってきて,歩いたはいいが走り始めるときが一番堪える。でも痛いから長いことは走れない。
賽の河原よろしく永遠に続くかと思う距離をのろのろと進む。
レース冒頭はキロ6分くらいを保っていたペースは,このあたりになるともうキロ8分前後をうろつくようになり。
気づくと自分の周りに居る人も満身創痍な人が多く,走ってその人を抜いたと思ったら自分が歩いている間にその人に抜かれる,ということを無限に繰り返した。
身体は限界に近づく一方だったが,それと同じくゴールが間違いなく近づいていることもまた段々と実感してきていた。
36km地点〜ゴール
36km地点の最終関門を突破すると,「ゴールまであと6kmだよ!」という応援が熱を帯びる。
このあたりになるとまた市街地に戻ってきていて,沿道の人もまだ応援してくれていて本当に頭が下がる。早い人たちは3時間を切るくらいでゴールするから,私が通過するまで2,3時間も応援してくれていることになる。
応援に「あざっす!!」と返す度になんとか踏ん張って,でも変わらずのろのろと進む。
もはや歩くのと変わらないくらいのペースで走っているのだが,逆を言えば一度歩いてしまえば走る気力が湧かないことは目に見えており,ここまできたらなんとか「走って」ゴールしたい一心で足を引きずる。
40kmを超えたあたりで流れてきたZARDの「負けないで」。これでもかと手垢の付いたテレビ恒例の演出だが,無性に響く。響くだけなのももったいないので,とりあえず歌ってみる。そしたら足が少し軽くなった気がした。
そんなこんなで,ゴール。
制限時間6時間のところ,記録は5時間49分。10分のみを残した実にギリギリのゴールだった。
私自身,本当に完走できるとは夢にも思っておらず途中リタイア上等くらいの姿勢で臨んだのだが,人間の身体は42kmも走れるようにできてるんだなぁというのが意外な発見。
今までできなかったことが,ひとつ,できるようになった。
何事も挑戦してみるもんだ。2019年最後にいい経験ができた。
ちなみにicchiは私よりも1時間以上早くゴールしていてさすがだったのだが,寒いなか待たせて大変申し訳なかったことも最後に添えておく。
言うだけ言っておく
当日帰宅途中からもう歩けないくらいに身体にガタが来ていたのだが,今このブログを書いているレース3日後の夜になると,イイ感じに馴染んできて一通りの運動はできそうである。
レース終わった直後は「マラソンツラい」という気持ちでいっぱいだったが,思い返すに,走っている5,6時間の間にあれほど自分を振り返るだけの機会もそうそうない。図らずもゴールの味も覚えてしまった。
もう一度走りたい。そういう気持ちも確かにある。
次は大きく飛躍して目標タイムは5時間以内!
蛇足になるが,今回のマラソンのきっかけを作ってくれた職場の同僚・Tさんが(大会の前日に)こんな本を貸してくれた。
たとえその行動がつらくてやる気が起きなくてもやれ。やる前は気が進まなくてもジムで筋トレして後悔する人,山登って山頂で後悔する人,マラソン完走して後悔する人はいない。やり甲斐や達成感はつらさの先にあるから価値が増すんだ。つらけりゃつらいほど価値が増す。つらいプロセスこそ感謝して笑顔でやっちまえ。
ほんとその通り。人生の極意は多分こんな感じなんだろう。
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