武甲山に登ってきた

2020/05/31。

2019年くらいから日帰り登山を新たな趣味にして,いい季節の時は月一くらいのペースで登っている。「登山」とは言っても私のは大仰なものではなく(日帰りでいけるレベルなので当然だが),リュックとパンと紅茶とを持っただけの大袈裟な森林浴である。

横瀬駅

今日のお山は埼玉県秩父にある武甲山。アニメ『あの花』にも出てるらしい(覚えてない)。

最寄り駅は西武秩父線の横瀬駅。始発で乗り込んだものの生憎の曇り模様で,そこまで涼しくもない。足を少し早めれば容易に汗ばむ,そんな湿度の朝。
遠目に見えるのが武甲山。大正時代に始まったという石灰石の採掘跡が痛々しくもあり,また雄々しくもある山。しかしよくもまぁあれだけ綺麗に断崖絶壁に採掘できるもんだ。
山頂はちょっと雲がかってるかしら。

武甲山の最寄り駅は横瀬駅ではあるのだが,登山口まではちょっと遠く,徒歩で1.5時間はかかる距離(あとでGoogleMapで測ってみたら6kmあった)。
まぁ山に向かって標高を上げていくのだから,これも登山の一環である。

石灰の道

おおよそ20分くらい歩いたところ。まだまだ登山口までの道の序盤であるが,だいぶ武甲山が近づいてきた。
道なりに何やら物々しい建造物があるが,これはセメント工場である。大正時代から始まった石灰石採掘とその加工業が地場産業となり,ここから登山口までの道すがらはほぼずっと,工場地帯よろしく石と金属と重機に事欠かない。


考えたら,こうも間近に工場を目にする事も無いわけで。
山に来たつもりが自然から最も遠いような場所に来てしまったが,工業化された山というものも初めての経験であり,終わるとも思えない石の道を進むのもそれなりに珍しく,楽しい。

自然の中の人工を感じる逆説的な道ではあるが,人の温かみを感じられるものもある。この時点で,横瀬駅から1時間ほど。確かにトイレに行くタイミングとしては適当で,ありがたい心意気である。

そんなこんなで工業地帯を抜け,気付けば周りは緑一色である。舗装道路の果てにあったのは,登山口の名物・鳥居。
ちなみに,道路の舗装も途切れ始めたというのに後方からバイクやら車やらがやたらと来るようになったのでどうしたことかと思っていたら,この鳥居の向こう側は広大な駐車場があった。さすがに登山の前に横瀬駅から1.5時間の距離を歩いてこようという酔狂な(もしくは車を持たない私みたいな)人は少ないようで,私が追い抜かれた台数を優に超える車両数が止まっている。
私とて始発で来たのだが,この時点で8時40分。自家用車勢はとうに登山を始めたあとだったということで,まぁ,人には人の登山のやり方がある。

登山道

鳥居の裏手にはすぐ登山道がある。既に長い道のりだったが,いよいよここからが登山。
息を吸う。石も,金属の匂いもしない。緑の色と香りとを目に鼻に感じつつ,「あっまた熊よけの鈴持ってくるの忘れた」とごちながら,舗装の途絶えた道を進む。


途中,面白いものを見つけた。
山肌を流れる小振りな滝があり,2Lのペットボトルが山と積まれている。そして「山頂にあるトイレの用水にしたいから,この水を持っていってくれないか」という看板。
これは合理的! 山頂のトイレ事情は良くないことが多いのだが,自分もトイレを借りるかもしれないし,微力ながら1本だけ持参することに(しかし満杯にする勇気は無かった)。持ち手の紐も付いていて,実に配慮深い。

その直後。
ちょっと身体は重くなったけど,その分心は軽くなる素敵な看板。工業に塗れた冷たい山かと思えば,実に人の営みを感じられる素敵な登山道だ。

気付けば登山口(鳥居のところ)から2時間弱。勾配はどんどん急になり,息はあがる一方。
ふと前を見上げると,木々の間に靄が漂う。山頂が近い。

山頂

山頂におわすのは御嶽神社。
よくある(と言うのもなんだが)ご神体で,私が度々登る奥多摩の御岳山にも山頂に御嶽神社がある。残念ながらここでは御朱印は頂けない。

御朱印はないが,私の手にはご神水ならぬペットボトルに入ったトイレ用水がある。神社の裏手に回ると,この水を貯めておくマンホールがあり,しっかりお納めしてきた。
ちなみに,水を吐き出して空になったペットボトルは,同じ道を通る下山者が例の滝の場所まで持って行ってくれることで循環している。私も,ペットボトルの紐をくくりつけ10本単位で背負って降りてくる人とすれ違った。これがきっかけで,登山道ですれ違う見ず知らずの人との会話が生まれもした。山と人,人と人の距離を縮めてくれる,返す返すもよい仕組みだ。

満を持して山頂の展望台へ。
いやぁ,絶景(知ってた)!! いいもん,また来るもんね。
ちなみに1,000mを超える山に登ったのは初めてである。その景色は,お預けだけど。

展望台は狭いので,ちょっと下ったところの広場で昼食。
7時20分に横瀬駅に着き,8時40分に登山口に着き,ここに至り10時40分。駅から数えれば片道3.5時間の長丁場であった。お昼を食べ,あっつい紅茶を飲み,登山の真の目的である深呼吸を数度。よし,帰ろう。

下山道

今更だが,登ってきた横瀬駅からのルートは「表参道」という。実は武甲山のルートは2つ(表参道の途中にある分岐を入れれば3つ)あり,今回は登りとは反対側に抜ける「裏参道」を選んだ。終着点は横瀬駅(西武鉄道西武秩父線)ではなく,浦山口駅(秩父鉄道秩父本線)になる。

看板には「裏参道:約3時間」とあるが,私は駆け足気味に下るので2時間くらいと見た(急ぐものでもないのだが,なんとなく気が急いてしまうのだ)。

同じ山なのに,登りと下りとでは見える景色は随分と違う。
木々が重なり吸い込まれそうな奈落を醸し,ここが山であると視覚的に認識するのは,往々にして下り道の方が多い実感がある(そしてそれは多分,登りの最中は景色を見る余裕がないことに大きく起因する)。

やはりハイペースで下ること1時間,沢の音が聞こえ始めたら登山はもう終わりである。
かいた汗を清流ですすぐひとときが,場合によっては山頂の深呼吸よりも登山の醍醐味なのかもしれない。

あとは沢に沿ってのんびりと下るだけ。
陽に薄く透ける緑に目を楽しませながら歩き,「登山口」を裏からくぐって本日の登山は終了。山頂から約1.5時間,なかなかのペースで降りてきたことになる。

登山は終わったとは言え,まだここは林の中。浦山口駅までは相当に歩くらしい。誰一人とすれ違うこともなく,駅に向けてひた歩く。

そして1時間弱(結構遠かった……),無事に浦山口駅に到着。
まったく考えだにしていなかったのだが,この浦山口駅を通る電車は2時間に1本。そして私が到着してから5分後に電車が来るという奇跡。
「計画性大事やで。今日のところは見逃してやるけど」と武甲山が言っているような気がした。

行程まとめ

振り返ると,行程はこんな感じ。

  • 7時20分:横瀬駅に到着
  • 8時40分:登山口(表参道)に到着
  • 10時40分:山頂に到着
  • 11時20分:山頂を出発
  • 12時50分:登山口(裏参道)に到着
  • 13時30分:浦山口駅に到着

総計6時間のコース。大満足!
今度は晴れてるときにまた来たいな!

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