シナリオ進捗(その1)

シカゴに来てからもうすぐ1年弱になる。
土日に遊ぶ友達もないので一人で趣味を楽しむ時間が必然的に増える中,一方で新しい趣味に取り組むこともある。私の場合,それは昔からの「いつかやってみたい」の堂々たる一つであり,同時に何度となく挑んでは跳ね返されてきた,分厚い壁に囲まれた憧れの対象でもあった。

小説の執筆だ。

思い返せば高校生の頃,悪友にライトノベルを教えてもらったのは今に至る人生の大きな岐路だったのだと思う。今でこそ考えられないが,当時はアニメもライトノベルも「オタクっぽい」(当時は「ヲタク」なんて言い方もした)趣味で,なかなか大っぴらに肯定されたものではなかった。「平日深夜と土日は家でアニメを見てます」なんて公開プロフィールは希少種で,それを解することが認知されている者同士のクローズドな楽しみの一つだった。
そんな中でも何故かへこたれず,新しい世界を見つけてしまった私は可処分額の少ない小遣いをつぎ込み,不自然にブックカバーで覆われたライトベルで自室の本棚を一杯にしては本棚を拡張してを繰り返した。

ところで,人によって程度は違うと思うが,音楽・映画・アニメ・イラスト,果てはエンジニアリング的作品を問わず素晴らしい創作物に触れたときに「自分もこんなものが作れたら」と思うのは,ある程度普遍的な心の創造的反応だと思っている。
私の場合それはライトノベルであり,剣と魔法のファンタジーだった。いい曲に出会えば素晴らしいと思うし,イラストを描ける人は心底尊敬するのだが,その感動がエネルギーとして内に向かうのは私においては創作小説の世界だった。
以降,何度か小説投稿サイトにチャレンジしてはみたが,一つの目標であった「新人賞」の応募には至れず,結局大学受験だったりなんだったりの中で優先順位を上げられず,心の中のカテゴリ「夢」の辺際に刺さった小さな棘を見ぬふりをしたまま,十余年が経過した。

救ってもらっていいですか

シカゴに来てから,またライトノベルを少しずつ読むようになった。その中で偶然手に取った一つのシリーズにひどく心が震え,「こんな世界が作れたら」という積年の念願が無視できなくなった。かといって,今まで何度も挑戦しては失敗してきた負の実績は無視できない。「がんばる」という気持ちの頼りなさは自分自身がよく知っている。
気持ちの問題ではなくもう少しシステム的なサポート,つまりちゃんと体系的に勉強したいな,という思いもあって,シナリオ創作の専門学校の社会人コースに通うことにした。

いくつかの学校を見てみたが,オンラインで授業参加できるのはアミューズメントメディア総合学院(AMG)のみ。運良く(本当に!)その週末にオンライン入学説明会があり,5月からの夜学コースにまだ空きがあるというので申し込むことにした。
授業は毎週木曜日の1900-2100。シカゴ時間だと早朝5時からだが,これならぎりぎり早起きの範疇だろう。毎週の課題をこなしながら(できてない週もあるけど),11月までの半年間勉強する予定だ。

アミューズメントメディア総合学院

アミューズメントメディア総合学院のノベルス専科(夜間)では、小説を書くために必要な技術はもちろん、アイデア出し、プロット…

ちなみに,もし知っている人がいると嬉しいので記しておくと,上記のきっかけをくれたラノベは『終末なにしてますか?』シリーズ。世界観,文体,キャラクター,読んでびっくりするほど好みに直撃した作品だった。
アニメもあるので,1話だけでも見ていただきたい(田所あずささん,ファンです!)。

シナリオコンテストに応募した

授業の中で,FM徳島が開催している「防災ラジオドラマ」のシナリオコンテストの紹介があった。

「防災ラジオドラマ」制作実行委員会

徳島県、徳島大学環境防災研究センター及び株式会社エフエム徳島の3者で構成する「防災ラジオドラマ」制作実行委員会では、徳島…

400字原稿用紙10枚前後の短いシナリオだが,取り組んでみると思っていたよりも難しい。どういう話にしたいか,どういう展開にしたいか,ミッドポイントはなにか? ……分量の制限は置いておいても,過不足のないストーリーラインをひねり出すのはとても大変だ。1ヶ月近く,仕事の傍ら唸りに唸ったが,なんとか自分なりに納得できる話の展開が出来上がったのは締切の1週間前だった。夢の分水嶺とばかりに,死ぬ思いで前日に全編の推敲まで終え,締切の本日,投稿した。

結果発表は11月。ちゃんとプロットからじっくり考えてシナリオを作ったのは今回が初めてなので,自分から見ても粗い部分は残っているし,入選できるとは露程も思っていないけれど,紛いなりにも一つの「作品」の中で登場人物たちの物語を完結できたというのは多少の自信になった気がする。

創作の過程でよくよく実感したが,自分の思考にはクセがある(たぶん,皆それぞれに)。そういうふと陥りがちな袋小路からの脱出口は,たぶんそのクセをメタ的に認知して意識的に他の思考をインストールすることなんだろうと想像する。
そのための勉強なんだと思うと,今週も授業が楽しみになってくる。

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