読了『ぼくらの仮説が世界をつくる』

2019/05/02読了。『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE.』を読んでから,佐渡島さんの考え方が好きでファンになった(『宇宙兄弟』はもっと前から好きだ)。
今回の本『ぼくらの仮説が世界をつくる』も,タイトルからして勇気づけられそうな匂いがぷんぷんしたので期待を高めて読んだ。そしてその直感は間違っていなかった。幸せだ。

「仮説」とは

この本のテーマにもなっている「仮説」。まずはそれを定義するところから始めよう。

本に限らず,新しいサービスが日進月歩で生まれる昨今。あまりにスケールが大きくて見逃してしまいがちになるが,どんなアイデアも誰かの「アイデア」によって生まれている。このアイデアが「これによってもっと便利になるだろう」という一つの仮説。だから,世界は,誰かの思い描いた「仮説」でできている。

ただ,「何かを達成するためには仮説・検証の流れが必要だ」と言われてもピンとこない。あまりに聞き飽きていて,目新しさなどない。佐渡島さんが経に意識しているのは「仮説を最初に立てる」ということ。
なにを当たり前のことを,と思われるかもしれないが,自分のことを振り返ってみても,「証明できそうな仮説」を年頭に考えてしまうことがよくある。つまり過去の情報を参考にしていて,自分の感性だけで物事を判断できていない,ということ。
本来であれば,その感性に従った独自の仮説を証明する段階になって,情報が必要になるはず。
「仮説→情報→仮説の再構築→実行→検証」であって,間違っても「情報→仮説→実行→検証」ではない。過去の数字を集めてきても新しいことはできない,ということ。

さらに,「今ある情報が自分の考えている仮説と違う」ときには「情報の方が間違っている」可能性すらも検討する必要があるかもしれない。それくらい,自分の感性を信じてあげてもいいんじゃない? と佐渡島さんに背中を押されたような心地。

ところで本書は中盤以降は佐渡島さんの「仮説」を説明していく構成になっている。「編集者」もしくは「経営者」としての仮説が多いけれど,面白いものも多いのでいくつか紹介してみる。

  • おもしろさは「親近感」x「質の絶対値」
    「練り込まれたプロの文章」よりも「友達のくだらない投稿」のほうを面白いと感じるのか? という疑問からこの仮説は生まれた。
    この仮説に則ると,マンガを読者により感動してもらうためにはマンガの質はさることながら,もっと「親近感」を持ってもらう必要があるということになる。だから,作者とファンとをダイレクトに繋げるSNSやエージェントシステムが必要だよね,と展開される。非常に腑に落ちる仮説だし,論理の飛躍がないのでとても納得できる。まさにお手本の「仮説」といった感じ。

  • 分人主義
    人は相対する人によって雰囲気が多少なりとも変わるのが面白い。家族と話すとき,友達と話すとき,上司と話すとき。それぞれ微妙に違うが,どれもが自分らしくもあるという奇妙な状態だ。
    これを,「人間というのは『本当の自分』が真ん中にあって様々なことをコントロールしているのではなく,すべて他人との人間関係の中に自分があって,『相手によって引き出されている』」と定義(=仮説)したのが分人主義である(詳しくは平野啓一郎『空白を満たしなさい』に記載とのこと;いま注文中!)。
    人間はこれ以上分解(=divide)できないもの(=individual)として考えられてきたけど,意外とそんなことはないんじゃない? という大胆な仮説で非常に面白い。
    親近感を,そのマンガに対する「分人」の出現頻度や大切さで定義したらどうなるだろう? と考えていくと段々と現実的になってくる。これも原理的な仮説であって,しかし的を射ているような気がして個人的にとても興味深い。

ドミノの1枚目を倒す

この言葉も本書の大事なテーマの一つ。

佐渡島さんの仕事のイメージはドミノ。ある1枚のドミノを倒すと,次にどのドミノが倒れるのか——それをいつも意識しているそう。
例えば電話取りやFAX配り(今ではもうないだろうが)みたいな単純な新人仕事も,フロアの人の顔を覚えることに繋がるし,FAXから人の担当業務の概要も知れるというインプットにも繋がる。
個人の業務だけではなく,社会的なインパクトを考えるビジネスにおいても同様の考え方は大事。最終的に倒したいドミノを見極め,そのキーとなる「最初の1枚」を徹底的に攻める。倒したドミノの枚数(仕事の数)ではなく,ドミノの連鎖を使ったインパクトにこそ重きを置こう。

単発で終わる仕事ではなく,どの仕事がどの仕事に繋がっていくのか。これ自体もある意味で一つの仮説でもあるだろうが,前後関係を俯瞰した視座で,予測を立てながら仕事をする重要性を説いた金言と思った。
是非とも覚えておきたい&実践していきたい考え方である。

おわりに

仮説を実現する冒険に出よう。

本書の「おわりに」に書いてある一文だが,なんて勇気をもらえる文章だろうね。実現された仮説が,こうやって世界をつくっていくんだよ,と。