読了『読書という荒野』

2019/06/12読了。

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個人的にアタリな本が多いNewsPicks Bookの,その発行元の一つである幻冬舎の社長・見城徹による本書。表紙の写真も格好いいし,はてどんなことが書いてあるのだろうと思って楽しみに積んでいたのだが,遂に読んだ。

読書経験とは

こんなに「はじめに」が熱い本を久しぶりに読んだ。まず,開いて最初に読むメッセージがこれ。

読書とは「何が書かれているか」ではなく「自分がどう感じるか」だ

読書を語る本のどれもが言っていることだけど,本を通じて人生を何度も生きるような経験を得られる。換言すれば,他人への想像力を磨くことができる。
面白いなと感じた指摘が,「日本には読書をせずとも,実世界から多くを学んでいた世代もいる」ということ。つまり戦争だ。こういう圧倒的な理不尽と不条理の元で生きると,人間はすべからく人間や社会に対する洞察力が身につくらしい。本書では戦争に並ぶ激動の時代として「学生運動」を挙げているが,まぁその是非はともかくとして,必ずしも読書が必要と説いているわけではないのは意外だった。
読書はあくまで(自分の)現実から離れた,ある種の仮想空間で人がどういう営みをするのかを観察するシミュレーションとも言えるんだろうか。そういうことをして等身大以上の人生経験を積もう,というメッセージに聞こえた。

人間進歩の3要素

これは見城徹の意見だが「自己検証,自己嫌悪,自己否定の三つがなければ,人間は進歩しない」と言う。これには個人的に同意するが,それに読書を絡めるのが見城流。本の登場人物の激動を目の当たりにし,自分の生き方の生ぬるさを痛感し,成長を繰り返す。うまく「情けなさ」を自覚するための装置と言ってもいいかもしれない。だからきっと本書のタイトルは「読書という『荒野』」なのだ。荒涼とした場所で,なお歩まなければいけない過酷さながらに。

的外れかもしれないが,高校のとき聞きかじった「アウフヘーベン」なんて単語をいまふと思い出した。

雑感

上記のようなことが「はじめに」には実に熱狂的に書いてある。常に本に触れている編集者,それも出版社の社長ともなれば発する言葉の説得力が違う。
そんなわけで意気揚々と本文を読み始めたのだが,その実残念なことに肝心の本文からは「はじめに」ほどの狂気を感じなかった。見城徹の半生を振り返りながら,彼が知り合った作家の特徴を評論するような本文。言葉を選ばずに言えば,ちょっと期待外れだった。
ただ,「読書でものを考える」とはこういうことか,という息づかいを非常に感じる,熱気迸るないようであったのは間違いない。ここまで思考の沼に溺れられるほどの洞察力は,逆説的にここまで思考しないと得られないんだろうなーと,それこそ「自己嫌悪」せざるを得なくなるほどである。

そんな感じで,本文こそやや振り切った内容になっていて読むのが苦しかったのが否定できないが,それ以上に「はじめに」に漂う気迫は本物である。たった数分で読めるような数ページに,エッセンスを凝縮していると考えればよい読書体験だったのかも,なんて今は思ったりする。

見城徹の著作に『たった一人の熱狂』というものがあるのだが,聞くところによるとこちらの方が評判がはかばかしい。これも次読みたい。

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