2020/05/27読了。
最近そこかしこで耳にする本書。400ページを超える大著であり,それに比例して内容も濃いので読了まで時間がかかってしまったが,とても良い本。
感想
タイトルこそ「AIxデータ」と銘打ってはいるが,本書の課題意識はなにもAIに限定されたものではない。あくまでAI(に代表される現代の黒船)に仮託して,この国の諸々の「筋の悪さ」を憂いて,未来への処方箋をいくつか提示してくれる本である。
本書では随所で「ペリーの黒船」が引用される。
“Society5.0″などが叫ばれるようになって久しいが,狩猟,農耕,工業,情報とゲームチェンジは歴史上繰り返して起こるように,これは一過性のものではなく,そこに通底する「波の乗り方」があるはずなのだ。
ペリーの時は,明治以降の目を見張る工業化と発展で事なきを得たが,今回もそうだとは言い切れない。国も一つの事業体であり,どうリスクを下げリターンをあげるのかという経営判断が求められる。現状それが上手くいっていないどころか大失敗しているので,見かねて『シン・ニホン』としていくつかの提案をしているのが本書だ。
科学技術にはちゃんと投資すること。若い人に投資をすること。
大きな問題意識は,その実感の程は置いておいて読者一律で共感することだと思うのだが,本書は問題提起だけでは終わらない。
国という一つの事業体として,限られた財源のうちからどこを削りここを捻出するか,というのがファクトベースで語られる。
全くの無策に根性論で語るのと,事実を踏まえた可能な限り現実的な提案(ように見える)を背に頑張るのでは,まったく違う。著者の安宅さんが国の政策にもインプットをしてくれてるようなので,期待しつつ,まだ若手と言える私はひたすら自分を磨けというメッセージを受け取った本だった。
また,本書の終盤は「風の谷プロジェクト」と呼ばれる,目先数年のことではなく長い視座で考えた「持続可能な人間生活」を可能にする都市構想が語られる。
本書は2020年2月に上梓された本であり,奇しくも新型コロナが猛威を振るい始める前だったのだが,だからこそ説得力を増して目に入る。
新型コロナの発生が,限界を迎えつつある星からの(最後の?)メッセージだった——なんて下手な笑いも起きない設定だが,これまでの都市中心の生活が見直されることになるのは間違いないだろう。
先日Weekly Ochiaiで著者の安宅さんが出演していたときは,地方移住を前提として(都市密集のアンチテーゼとして)「開疎化」というワーディングがあった。
目次
- データxAIが人類を再び解き放つ——時代の全体感と変化の本質
- 「第二の黒船」にどう挑むか——日本の現状と勝ち筋
- 求められる人材とスキル
- 「未来を創る人」をどう育てるか
- 未来に賭けられる国に——リソース配分を変える
- 残すに値する未来
引用
p43
何もかもをブラックボックス化して作ることで競争優位,競合の参入障壁を築く時代は終わりつつある。
p45
つまり,各事業者はこれまでとは比較にならないほど長い間,顧客との関係にコミットするようになる。
p55
まったく見えないところから新しいゲームが始まり,そこに参加しなかったために国としてジリ貧になったのだ。
p101
ユーザ保護ではなく既存業態の保護行政のために,幅広くデータの力を解き放つことができない。
p119
日本はほぼすべてのオールドエコノミーをフルセットで,世界レベルで持つ数少ない国の1つだ。
p130
1つ認識されていない日本の強みは,この国は3歳児くらいから,この妄想力を半ば英才教育している珍しい国だということだ。
p131
日本の未来の勝ち筋は次の4つにまとめられる。(中略)「すべてをご破算にして明るくやり直す」「圧倒的なスピードで追いつき一気に変える」「若い人を信じ,託し,応援する」「不揃いな木を組み,強いものを作る」
p154
「狭き門より入れ」(中略)同列の競争での優秀さではなく質的な違いこそが勝ちになる時代において,交換可能な部品になると実に厳しい道を歩むことになるからだ。
p190
経験がどこに生きるかわからない,それがいつかつながると信じて生きよ。
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