読了『シェークスピアは誰ですか? 計量文献学の世界』

2019/10/22読了。

【中古】シェ-クスピアは誰ですか? 計量文献学の世界 /文藝春秋/村上征勝 (新書)

会社の同僚からおすすめされて。
常日頃言葉遣いに気をつけている彼なのでこういうのにも興味を持つんだろうな,と思って楽しみに読んだ。

計量文献学

「計量文献学」なる学問があることを初めて知った。創始者と言われるのは論理記号で有名なド・モルガン。

動物は数を数えられないと言われており,ともすれば「数を数えること」は人間を人間たらしめる重要なファクターということになる。
しかし,文学の世界は長く「数える」から無縁だった。「感情」を旗印に抽象的な表現をしてその評価を行う世界として,日本においては「理系」「文系」なんて言葉まで存在している。
その抽象的なものを,計量的に示せたら面白そうじゃない? という学問分野。人の指には「指紋」があるように,言葉遣いにおいても個人識別が可能なのではないか,と。

シェークスピアは誰ですか

知らなかったのだが,実は「シェークスピア」なる文人の存在は疑問視されているのだそうだ。

ほかにも,『(新訳)聖書』,そして『源氏物語』にも一部が別人の著作であるという議論が兼ねてからあるそう。
そういう疑問に対して,計量文献学を武器に解いていく。

……のだが。
古典に関しては,如何せん絶対的な「解」がわからない命題なのでちょっと尻切れトンボ感があって残念。

本書で扱う(伝統的な?)計量文献学では,単語や品詞別の出現率や,日本語であれば読点の打ち方などを手がかかりに著者を推定しようと試みる。
ただ個人的には,文章における「その人らしさ」というのはそんなに明には表現されないだろうし,また『源氏物語』やシェークスピアの戯曲などストーリー性のあるものであれば,そのストーリー展開にこそ宿るのだと思う。そういう意味で,本書(2004年初版!)で扱う内容はちょっと物足りなかったというのが正直なところだ。

「手書きとパソコンで書く文章の質は変わるのだろうか?」など,面白そうなテーマも頭出しだけはされているのだが,結果が出ておらずムムムとなる。

探してみると,2016年にも同じ著者から本が出ている。

こっちも読んでみようかしら。

まとめ

文章に人となりは表れると私は信じているし,だからこそ言葉遣いには気をつけようと常々思っている。
そして逆を言えば言葉遣いから人格が形成されるケースだってあるんじゃないだろうか。人間は母語で思考すると言われているが,その母語が人の思考=人格を規定しないわけがないと思うから。

もし,憧れのあの人のようになりたい,という場面で,その人の思考パターンを模倣した文章が書け/言えたら,世界はもっと面白くなるんだろうな。