読了『遅いインターネット』

2020/03/07読了。
この本が予約受付中の時に何かのメルマガかSNSかで知り,届いてからも数冊分だけ積んでしまっていた本。

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なんて面白い本だろう。「視点」というのはこういうことを言うのだな,と思った。
自分がいかに思慮なく考えた「つもり」になっているかを思い知らされると同時に,大きく成長するきっかけになるかもしれないと感じた本。

ちなみに,この本のタイトルになっている「遅いインターネット」だが,これと同名の「計画」についてCampfireコミュニティでパトロンになることができる。熱に浮かされるように,私も登録してしまった。

宇野常寛の私塾コミュニティ。5月開講「PLANETS School 〈発信する人になる講座〉ーー宇野常寛のノウハウを全開…

感想

昨今の世界の在り方に深い考察を促してくれる本。まず,世界を「牛耳る」グローバル経済と(カギカッコ付きの)「民主主義」の関係を解いていくことから,本書は始まる。
もはや経済がグローバルに展開されて世界は1つとなり,その守備範囲が経済>政治となったいま,「世界に素手で触れる」手段の王道は経済である。ただし,(前世紀的な)「境界のある世界」に住む一定数以上の人にとっては「民主主義」は「世界に触れる」手段として拠り所になっているのだ,という指摘だ。そんな民主主義「から」の解放に向け,本書では3つの手段を紹介する。③が著者の提案。

  1. 民主主義に制約を課し,立憲主義にパワーバランスを傾ける。
  2. 「多数決」以外のボトムアップ的回路を並走させる。大事なのは「非日常的」な政治ではなく,「日常」の中に政治を組み込む回路である。具体例としては「クラウドロー」などが挙げられている。
  3. 本書の提案・「遅いインターネット」。

3.について説明する。
自分の物語=自己幻想をどうマネージするかというこの時代において,他の二幻想(対幻想/共同幻想)はもはや自己幻想に組み込まれているから,自己幻想からの自立には役立たない。
いまの情報技術は「速すぎて」,その情報との距離感や速度感を,個人が決めることができないでいるためだ。
そこで参考になるのが,2010年代に欧州で始まった「スロージャーナリズム」。ただし,遅く「発信する」ことだけでは世界を変えるには不十分で,必要なのはその受け手の存在だ。
SNSなどで「書く」ことが日常化し,「読む」ことの存在感が低下している時代。その時代の流れには従い,まず「書くこと」が入り口になる。つまりスロージャーナリズムだ。その上で,ちゃんと正しく「書く」ためには,同じくちゃんと正しく「読む」ことが必要であるという視座に立ち,再度「書く」ことに立ち戻るという往復運動が,「遅いインターネット」計画だ。

内容も然る事ながら,緻密に展開される議論が目を剥くくらい面白い。何度,息が漏れたことか。
そんな見方もできるのか! と頷きすぎて首が痛い。

キーワード

  • ローカルな国家とグローバルな市場
  • 「境界のない世界」
  • 「Anywhere」な人と,「Somewhere」な人
  • 世界に素手で触れるという感覚
  • 文化の四象限。横軸は日常↔非日常。縦軸は(上)他人の物語↔(下)自分の物語。第三象限(=自分の物語 x 日常)を目指す。

引用

p10

否定の言葉だけが人間と人間をつなぐことができる。それがこの社会の身も蓋もない現実だった。

p44

あたらしい世界,「境界のない世界」に生きる自分たちはもはや民主主義のような旧い世界のシステムを必要としていないのだと。この主張が,民主主義というゲーム上で支持されることが果たしてあり得るだろうか?

p52

20世紀的なインターナショナルな政治とローカルな経済の関係が,21世紀的なグローバルな経済とローカルな政治に逆転したときに,政治をコントロールする民主主義は世界を素手で触れることのできない人々の拠り所になっていったのだった。

p63

20世紀までの人類は技術的に人間の,極端なふたつの側面,つまり「市民」か「大衆」かを想定した制度しか作ることができなかった。

p99

21世紀の今日,僕たちは情報技術を「ここではない,どこか」つまり仮想現実を作り上げるためではなく,「ここ」を豊かにするために,つまり拡張現実的に使用している。

p126

スマートフォンの中のピカチュウに意識が集中することは,目の前の景色を遠ざけてしまう。いま必要なのは媒介なく個人と世界と直接つなぎ,それに素手で触れているという実感を,自分の物語を,日常の領域で成立させることなのだ。

p181

自己幻想をマネジメントすることで世界に対しほどよい進入角度と距離感を試行錯誤し続けるために,どのような支援装置があるとよいのだろうか。

p187

僕たちは自分たちの情報に対する速度と進入角度を,いまSNSのプラットフォームに明け渡しているのだ。

p190

このインターネットという素晴らしい装置は,発信能力を与えられたところで発信に値するものを持っている人間はほとんどいないということを証明してくれた。

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