私がこの夏最も見たかった映画『風立ちぬ』。
『コクリコ坂から』じゃないけど,「意中の異性と一緒に見るべき映画」なんてキャッチコピーが跋扈しているせいで,なかなか行けなかった(そっち方面はお察し)。でもそれで見られないまま夏休みを終えるのも本末転倒なので,一念発起して鑑賞。前日のうちに座席予約をしていくというセルフ背水の陣を敷いてねw
あらすじ
幼い頃から飛行機が大好きだった堀越二郎は,飛行機の設計をすることを夢見て,ドイツの飛行機製作者,ジャンニ・カプローニと通じ合うものを感じていた。東京の大学を卒業し,三菱内燃機製造の航空技術者となった二郎は,飛行機の設計を手がけるように。しかし,自分の設計した飛行機が墜落し,傷心した二郎は避暑地に向かう。そこで里見菜穂子という女性と恋に落ちた二郎は,彼女と婚約。しかし,菜穂子の体は肺病に冒されていた……。
感想:★★★★☆
かの有名な零戦(と烈風)設計者・堀越二郎を主人公に据えた,実在の人物を扱った初のジブリ映画。ちなみに原作は堀辰雄の『風立ちぬ』。兵器・零戦にスポットは当てづらいと思うんだけど,純粋にどう焦点を当てて映画に為したのかが気になった。
映画は堀越少年の夢から始まる。宮崎アニメ独特の色使いと質感で,ファンタジックに単座機が空を舞う。それからしばらくしてまた夢。今度はドイツの飛行機設計者カプローニとの語らいが主となって,堀越少年は「美しい飛行機が作りたいのです」と語る。
そうして堀越少年は堀越青年となり,東大航空学科に進学。そういえば,彼が学生の時分と関東大震災の時期は重なるのね。そういう描写がイキナリ入って,ちょっと面食らった。
名古屋の三菱へ航空設計者として入社してからは,大抜擢を受けて零戦の主任設計者を任せられる。このあたりは映画としては省かれまくっていて,ただ「天才」としか描かれていない。
どの飛行機かはしっかり見ていなかったんだけど,試作段階で自らが制作した飛行機が墜落し,それで避暑地軽井沢に休暇を取る堀越青年。そこである女性と出会い,端的に言えば彼女との恋模様がこの映画の後半を彩っていく……という流れ。細かいところはあんまり覚えていないので,どうぞ映画館で観てくださいね。
全体として,説明不足が目立つ映画。私が史実的な側面を期待しすぎたのかもしれないけど,あまりに夢でカプローニと語り合う部分が多くて,ああこの映画はファンタジーなんだって思ってしまった。避暑地に向かうシーンも唐突で,少々置いてけぼりにされる。
そして一番残念だったのが,件の恋愛要素。これ,必要だったかなあ。いや,ないとあまりに男臭すぎるんだろうけど。
原作を読んでいないので憶測の域を出ないまま文句を申し上げて申し訳ないのだが,どうにも私には中途半端に感じた。恋愛要素が悪いのではなくて,飛行機設計に関する苦難・一瞬だけ登場した特高の話・妹・同期の本庄との絡み……大きく扱えば面白くなりそうな要素が一杯あるのに,(恐らく万人受けを狙って)「恋愛」という選択をしたことに少なからず落胆。
恋愛を扱うには,飛行機設計はあまりにも親和性がなさ過ぎるよ。『コクリコ坂から』は恋愛物としては完成度が高く感じられたし面白かっただけに,『風立ちぬ』のようにある意味片手間に扱う悲恋ほど見苦しいものはない。せめて前半で多少尺を短くすれば,もっとスポット当てられたのかなあ。それでも,宮崎駿も飛行機と恋愛をうまくあわせようとなさったんだろうけどね。
更にストーリーがよく分からない着地点に収まっているのも納得いかない。上記恋愛と絡むけれど,クライマックスは少し唐突だけど……まあ,堀越視点と言えば収まりはつくのかなあ。
結局,飛行機が上手くいったところで映画は終了。あまり期待してはいなかったけど,空戦映画にはならずじまい。まあ,そりゃそうだよねえ。
以上のように,恋愛要素に関しては私は残念だったけど,他の部分はさすがジブリと言える描写。見ていて綺麗だと思えるアニメは貴重だよ。ストーリーの不完全さ,舌っ足らずな恋愛要素……と残念な点はあるけれど,空と恋を大衆映画としてまとめた意欲作であることは疑いようがなくて。少々甘いかもしれないけど,4点とさせていただこうかしら。
おまけ
堀越二郎が零戦の設計者として有名だから,てっきり『風立ちぬ』も零戦を扱っているのかと思っていたら違った件。右の画像を見てもらえばいいんだけど,どう見ても零戦とフォルムは違うよね。
これ,九試単座戦闘機だよ。作中で枕頭鋲採用してるし,黒川さんが「240kt!?!?」とびっくりする描写が最後にあるから,間違いないね(ちなみに零戦二一型は275kt)。恐らくこれは1935年。詳しくはWikipediaを参照されたし。
さて,そうすると(避暑地に休暇を取るきっかけとなった)墜落した飛行機は奥山操縦士の零戦じゃなかったんだなあ。
描写としては分解の様子とか,非常に近いように見えたんだけど,どれも似たように保存されていたのだろうかね。どうやら開発していた機体は違ったようだけど,映画の本当に最後の部分にまたカプローニとの夢が入って,彼が「アレが君のゼロか」と言う描写がある。
それに対して「一機も戻ってきませんでした」と言う堀越二郎だが,ここだけは,この映画の中で唯一「戦争」を感じ取れる悲壮感漂う演出になっている。
映画の最後は「美味しいワインがあるんだ」で終わっているが,少しだけ堀越二郎のその後も見てみたかった気がするなあ……まあ,ここは触れないままで終わらそうという監督の計らいだろうけど。
以上感想終わり。零戦映画だと思っていたばっかりにびっくりしたけど,機体は関係ないよね。
蛇足かもしれないが,12月にV6岡田主演で「永遠のゼロ」という映画がある。これは予告編見る限りガチな空戦モノらしい。こちらも楽しみ。つくづく,今年は空戦がアツいなあ。ラノベで言えば,「とある飛空士への追憶」シリーズのヒットからの「飛べない蝶と空の鯱」シリーズの台頭。今後も期待できる分野でしょうね。胸が熱い(そういえば艦これもあった)。
さらに蛇足だけれど,先日こんな動画を見た。
このあまりの完成度の高さに感動。これはフライトシムとしてその界隈で有名な”IL-2″というPCソフトを使っているようで,つい購入してしまったwwwwだって安いんだもんww
しかし輸入版だからか,配送予定日時が10月12日……。まあ,首を長くして待つとしましょう。
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